BLOG ブログ

30人の壁・50人の壁を乗り越える:成長期企業が必ず直面する組織OS書き換え戦略

組織の成長段階

2026.09.27

「社員が増えたのに、なぜか会社がまとまらなくなった」

この違和感を覚える経営者は少なくありません。従業員が30人、あるいは50人を超えるあたりで、多くの企業が同じ壁にぶつかります。

本記事を読み終えたとき、手元に残るものは3つです。

  • 「30人の壁」「50人の壁」が、なぜその人数で生まれるのかという構造
  • 壁を放置した組織で実際に起きていること
  • 対話によって組織のOSを書き換える具体的な方向性
増え続ける机を前に立ち尽くす創業経営者

30人・50人という数字が壁になる理由

経営者1人で見られる人数には、上限がある

経営学には「スパン・オブ・コントロール(管理限界)」という考え方があります。1人の上司が直接指示・管理できる部下の数には限界があり、業務内容が個々に異なるオフィスワークでは、目安として5〜7名程度とされています。

【出典】グロービス経営大学院「スパン・オブ・コントロール」用語解説https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11843.html

創業直後は、経営者が全員の顔と仕事を直接把握できます。しかし従業員が20名、30名と増えていくと、経営者1人が直接見る人数は、この管理限界を数倍単位で超えます。

にもかかわらず、創業期の「経営者が全員を直接見る」というやり方をそのまま続けてしまう。これが「30人の壁」の実体です。指示は届いているつもりでも、実際には経営者の目が届く範囲を、組織の規模がすでに超えているのです。

50人は、数字だけでなく「制度」の壁でもある

50人という節目には、もう一つの意味があります。法律上の義務が発生する境界線だからです。

労働安全衛生法および同法施行令により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任と衛生委員会の設置が義務付けられています。選任を怠れば労働基準監督署への報告義務違反となり、罰則の対象にもなります。

【出典】厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「事業場の皆様へ 確認しましょう!」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000168242.pdf

つまり、30人の壁は「経営スタイルの壁」であり、50人の壁は「制度・ガバナンスの壁」です。前者を越えられなければ、後者の義務にも実質が伴いません。産業医を選任しても、現場の実態が経営層に届く仕組みがなければ、制度は形だけのものになります。

【2つの壁の正体】
30人の壁 … 経営者が直接管理できる人数(5〜7名の目安)を数倍超える
50人の壁 … 産業医選任・衛生委員会設置が法律上の義務になる

壁を越えられない組織で起きていること

制度の整備は、30人前後でくっきり分かれる

この壁を越えられているかどうかは、統計にも表れています。

中小企業庁「2025年版中小企業白書」によると、人事評価制度を「設けている」と回答した法人の割合は、従業員規模別に次のように分かれます。

従業員規模評価制度を「設けている」割合
30人以下25.1%
30人超〜50人以下52.6%
50人超〜100人以下68.1%
100人超78.9%

【出典】中小企業庁「2025年版中小企業白書」第2部第1章第4節 人材戦略https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b2_1_4.html

30人を境に導入率はおよそ2倍に跳ね上がります。多くの企業が、この規模で制度整備の必要性に気づくということです。

一方で、30〜50人規模でもなお半数近くが評価制度を「設けていない」まま人数だけが増えています。制度がない状態では、誰がどう評価されているのかが見えません。初期メンバーには「暗黙の了解」で通っていたことが、中途入社者には伝わらないのです。

「昔の風土」のままでは、中堅層が離れていく

制度の空白は、既存社員の不満にもつながります。

エン・ジャパンが2026年に実施した「ミドルの転職理由と不安に関する調査」(35歳以上のミドル世代1,052名対象)では、転職を検討する理由の1位は「会社の方針・風土への不満」で44%でした。

【出典】エン・ジャパン「ミドルの転職理由と不安に関する調査」(2026年9月10日発表)https://corp.en-japan.com/newsrelease/2026/46425.html

創業期の「なんとなく分かり合えていた」風土は、人数が増えるほど再現しにくくなります。中途入社の中堅層は、その風土のあいまいさに直面し、方針が見えないまま働くことになる。これが不満の芽になります。

以前の記事では、1人の離職にかかる費用を試算しました(年収400万円の社員で約367万円という試算)。ただ、その金額が示しているのは、方針や風土のあいまいさが語られないまま、関係が終わってしまったことの値段でもあります。壁の問題は、組織の空気だけの話ではありません。

対話によって組織OSを書き換える

なぜ経営者に「本音」が届かなくなるのか

人数が増えるほど、経営者と現場の間には物理的な距離が生まれます。かつては雑談の中で拾えていた小さな違和感が、報告というフィルターを通さなければ届かなくなります。

そして報告には、評価する側とされる側という関係が介在します。「困っています」と言えば評価が下がるかもしれないという警戒心があれば、報告の内容は自然と建前寄りになります。壁が生む距離は、組織構造の問題であると同時に、語られにくさが増えていくという関係の問題でもあるのです。

これは経営者だけの問題ではありません。人数が増えるほど、経営者自身もまた、自分の迷いを話せる相手を社内に持ちにくくなります。距離は、両側に生まれています。

中間管理職を、上と下をつなぐ役にする

30人の壁を越えるうえで欠かせないのが、中間管理職の役割です。ただし、単に役職を作るだけでは機能しません。中間管理職には、現場の違和感を経営者に伝わる言葉にすることと、経営者が決めたことを現場に伝えることの、両方の向きが求められます。

【組織OSの書き換え】
現場で語られた違和感
↓
中間管理職が、経営者に伝わる言葉にする
↓
経営者が判断する(決めたこと・決めなかったこと)
↓
その判断が現場に伝わる
↓
それを受けて、次の話が出てくる

この往復が回るようになるまでには時間がかかります。それまでの間、社内の階層だけに頼ると、語られないまま埋もれるものが出やすくなります。

対話を、制度として組み込む

制度(評価・役割分担・会議体)と対話は、どちらか一方では足りません。制度は「誰が何を担うか」を明確にしますが、そこを流れる情報の質までは保証しません。

利害関係のない第三者との対話の場を、定期的な仕組みとして組み込むことも、選択肢の一つです。評価に関与しない相手であれば、従業員は「話しても実害がない」と感じやすくなります。ただし、そこで語られたことを経営層に届けるだけでは足りません。経営者が何を決め、何を決めなかったのかが話した側に伝わらなければ、「話しても何も変わらない」という経験が一つ増えるだけです。伝えることと、決めたことを伝え直すことが一続きになって、はじめて対話は組織の中で動き始めます。

中間管理職と若手社員の落ち着いた対話

これは、評価制度や会議体を置き換えるものではありません。制度が整うまでの過渡期、あるいは制度が整った後も残る「言いにくさ」を補う役割です。

まとめ:壁は、経営者の力量の問題ではない

30人の壁、50人の壁は、経営者が無能だから生まれるものではありません。管理できる人数に上限があり、法律上の義務がある人数で発生する、構造上の必然です。

問題は、壁の存在に気づかないまま、創業期の体制を引き延ばしてしまうことにあります。

貴社では、現場の小さな違和感が、どのくらいの時間で経営者まで届くでしょうか。その経路を思い出せないとしたら、そこに書き換えるべき組織OSがあります。

この記事をシェアする