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離職コスト試算:1人の退職が企業に与える経営インパクト

離職とコスト

2026.09.06

「また辞めたか」

この言葉を、何度繰り返してきたでしょうか。

給与も見直した。研修も導入した。それでも人は去っていく。

その違和感には、理由があります。離職を「人の問題」として捉えている限り、対策は的を外し続けるからです。

本記事を読み終えたとき、手元に残るものは3つです。

  • 自社の年間損失額を試算する方法
  • 対策に投資すべきかどうかの判断基準
  • どこから手をつけるべきかの優先順位
従業員が去った後の、空いたオフィスのデスク

「また辞めた」が繰り返される理由

統計は改善している。それでも辞めていく

厚生労働省が2026年8月31日に公表した「2025年雇用動向調査」によると、離職率は13.7%でした。前年から0.5ポイント低下しています。

数字の上では、人材の定着は改善しているように見えます。

【出典】厚生労働省「2025年 雇用動向調査結果の概況」(2026年8月31日公表)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/index.html

ただし、これは全体の平均値です。

パートタイムを除く一般労働者に限れば、離職率は11.4%。従業員40名の企業なら、年間4〜5人が辞める計算になります。

そして、もう一つ見落とせない数字があります。転職した人のうち、前職より賃金が「増加」した人は40.8%。「減少」した人は31.0%です。

給与が下がってでも、人は職場を変えているということです。

待遇改善だけでは引き止められない理由が、ここにあります。

退職者の半数は、本当の理由を告げずに去る

まず、経営者が置かれている情報環境から確認します。

エン株式会社が2024年に実施した調査では、退職時に本当の理由を会社に伝えた人は47%でした。

つまり、半数以上が本当の理由を告げないまま退職していることになります。

伝えなかった理由の1位は「話しても理解してもらえないと思ったから」で46%。次いで、円満に退社したいという動機が挙がっています。

そして本音の退職理由として最も多かったのは、「人間関係」でした。

【出典】エン株式会社「『本当の退職理由』調査(2024)」https://corp.en-japan.com/newsrelease/2024/38267.html

ここに、対策がずれる原因があります。

企業側が離職の原因をどう捉えているかを示す調査があります。タナベコンサルティンググループが2026年9月に公表した調査では、企業が挙げた離職理由の1位は「処遇・待遇への不満」で48.1%。前年から8.0ポイント上昇していました。

【出典】タナベコンサルティンググループ「2026年度 人材・組織の取り組みに関する企業アンケート調査」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000378.000058707.html

2つの調査を並べると、ズレが見えてきます。

離職理由の1位
企業が認識している理由処遇・待遇への不満(48.1%)
退職者が語る本音人間関係

経営者の手元に届くのは「家庭の事情」「キャリアアップのため」といった建前です。その建前をもとに対策を立てれば、給与や制度に手を入れることになります。

しかし本当の原因が人間関係にあるなら、その投資は課題に届きません。

打った手が効かない。だから離職が止まらない。

この繰り返しが「また辞めた」の正体です。

1人の離職が、次の離職を呼ぶ

離職の損失は、辞めた1人分では終わりません。

組織の中では、こうした連鎖が起きています。

  1. 1人が辞める
  2. 残された人に業務が集中する
  3. 残業が増え、疲弊する
  4. 「この会社は大丈夫か」という不安が広がる
  5. 次の離職が起きる

従業員30〜50名規模では、この影響が特に大きく出ます。1人が担っていた業務を代替できる人材が限られているためです。

大企業なら吸収できる欠員も、中小企業では直撃します。

さらに厄介なのは、この負担増が「静かな退職」を誘発する点です。

マイナビキャリアリサーチLabの2025年調査(2024年実績)によれば、20代の46.7%が必要最低限の業務にとどめる働き方を実践しています。50代45.6%、40代44.3%と、すべての年代で4割を超えています。

【出典】マイナビキャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2025年」https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250422_95153/

辞表を出す人だけが問題なのではありません。

在籍したまま力を出さなくなる人が、静かに増えていきます。しかもその状態は、表面上とても見えにくいものです。

なぜ本音は経営者に届かないのか

では、なぜ従業員は本当の理由を告げないのでしょうか。

答えは、個人の性格ではなく構造にあります。

上司と部下の間には、評価する側とされる側という関係があります。評価は給与や昇進に影響します。

つまり本音を語ることには、実害のリスクが伴うのです。

このリスクがある限り、「正直に話してほしい」と伝えるだけでは本音は出てきません。1on1を制度化しても、面談の相手が評価者であれば、この構造は変わらないからです。

誤解のないように申し添えます。

1on1も研修も、無意味ではありません。組織の土台として必要な施策です。ただし、それらを整えてもなお「本音が言いにくい」という構造は残ります。

制度で解決できる範囲と、構造に由来する範囲。この2つは分けて考える必要があります。

離職の目に見えないコスト

電卓と書類を前に、離職のコストを試算する経営者

ここから、実際の金額を計算します。

年収400万円の社員が1人退職した場合を例にとります。

採用コスト:約100万円

まず、欠員を埋めるための費用です。

  • 求人媒体への出稿費用
  • 人材紹介会社への成功報酬
  • 採用担当者・面接官の人件費(書類選考、面接、日程調整の工数)
  • 内定者フォローにかかる費用

2025年時点の調査では、中途採用1人あたりの平均コストは80万〜110万円台とされています。

採用手法による差は大きく、人材紹介サービスを利用した場合は平均372.1万円という数値も報告されています。

年収400万円の職種を自社採用と媒体併用で埋める場合、おおむね100万円前後が目安になります。

教育・立ち上がりコスト:約48万円

採用しただけでは、業務は元に戻りません。

新しく入った人が本来のパフォーマンスを出すまでには、一般に3〜6ヶ月かかります。

その間、次のコストが発生します。

  • OJT担当者が指導に割く時間(その分、本来の業務が止まります)
  • 業務マニュアルの整備、引き継ぎ資料の作成
  • 外部研修や資格取得の支援費用

指導する側も通常業務を抱えています。教育にかかる時間は、そのまま生産量の減少として跳ね返ります。

この期間の損失を人件費に換算すると、約48万円規模になります。

生産性の損失:約219万円

最も大きく、最も見落とされやすいのがこの項目です。

損失の内訳何が起きるか
欠員期間の業務停滞退職から新任者の着任まで、業務が止まる、または遅れる
残された社員の残業増業務を分担するための超過勤務が発生する
引き継ぎ不全による品質低下属人化していた知識が失われ、対応品質が落ちる
顧客対応の断絶担当者変更により、取引先との関係構築がやり直しになる

新任者の生産性は、着任直後は本来の3割程度から始まります。

フル稼働に至るまでの差分は、すべて損失です。

これらを合計すると、約219万円に達します。

合計:1人あたり約367万円

3つを積み上げます。

項目金額
採用コスト約100万円
教育・立ち上がりコスト約48万円
生産性の損失約219万円
合計約367万円

年収400万円の社員が1人退職すると、年収に近い金額が失われるということです。

この金額は職位によって変動します。

管理職や専門職であれば、採用の難度も引き継ぎの複雑さも上がるため、1人あたり650万円規模に達することもあります。逆に業務の標準化が進んでいる職種であれば、350万円程度に収まります。

いずれにせよ、従業員40名の企業で年間3人が離職すれば、1,000万円を超える損失が毎年発生している計算になります。

なお、当社サイトの離職コストについてでも、この試算モデルの概要をご紹介しています。本記事は、その内訳を分解したものです。

ROI試算で経営判断を変える

「予防」を投資として計算する

ここまでの数字を、経営判断に使える形に変換します。

考え方はシンプルです。

離職を1人減らせば、367万円の損失を回避できます。であれば、離職を減らすための施策にいくらまで投資できるか、という計算が成り立ちます。

たとえば、従業員が月1回、社外の専門家と対話する機会を設けるとします。この種の施策にかかる費用は、規模にもよりますが年間100万円程度が一つの目安です。

投資対効果を計算する

項目金額
予防施策への投資年間 100万円
防いだ離職2人
回避できた損失734万円(367万円 × 2人)
差引の効果634万円
投資対効果(ROI)634%

2人の離職を防ぐだけで、投資額の6倍以上が戻る計算です。

1人でも防げれば、267万円のプラスになります。

数字は、判断の質を変える

この試算には、もう一つの意味があります。

離職を「人間関係の問題」として捉えている限り、対策は後回しになりがちです。売上や利益に直結する案件が優先されるためです。

しかし367万円という数字が出てくると、話が変わります。

離職対策は感情の問題ではなく、回収可能な投資判断になります。取締役会でも説明できる形になり、予算の優先順位を議論する土俵に乗ります。

ただし、前提が一つあります

ここで、最初の話に戻ります。

対策に投資すると決めても、本当の原因が分からなければ投資先を間違えます。

給与に投じるべきなのか。業務量なのか。上司との関係なのか。

それが分からないまま打つ手は、これまでと同じ結果になります。

そして先に見たとおり、退職者の半数以上は本当の理由を告げずに去っていきます。評価関係のある相手には本音を言いにくい、という構造があるためです。

だからこそ、利害関係のない第三者が対話を通じて本音を受け取り、個人が特定されない形に構造化して経営者に届ける仕組みが機能します。

これは制度の代わりではありません。制度では届かない領域を補うものです。

まとめ:数字から始める組織づくり

1人の離職で約367万円。年間3人なら1,000万円超。

この数字は、対策を「いつかやること」から「今期の経営判断」に引き上げます。

ただし、投資の前に必要なものがあります。

自社で何が起きているかを、正確に把握することです。

最後に、この数字の見方をひとつ付け加えさせてください。367万円は、辞めた人を引き止められなかった損失として読むこともできます。けれど、退職を告げられる前に、その人が職場で話せなかったことの値段として読むこともできます。

辞める人の多くは、ある日突然決めるわけではないのかもしれません。数字は入口にすぎません。その先にある「辞めるまでに、何が話されなかったのか」に目を向けるところから、組織づくりは始まります。

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