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静かな退職とは:「必要最低限で働く」社員は、やる気がないのか

心理的安全性と対話

2026.10.04

「指示されたことはやる。でも、それ以上は動かない」

そんな社員が増えたと感じる経営者は、少なくありません。「静かな退職」と呼ばれるこの働き方を、経験したり共感したりする会社員は64.6%にのぼるという調査結果があります。

本記事を読み終えたとき、手元に残るものは3つです。

  • 「静かな退職」という現象で、実際に何が起きているのか
  • それを「やる気がない」と見てしまうと、見落とすもの
  • 対話によって、この現象にどう向き合えるか
決められた分だけ、淡々と仕事をこなす社員

「静かな退職」で、何が起きているのか

6割以上が、経験または共感している

まず、データから見ていきます。

株式会社クレオが、2026年9月4日に「静かな退職とエンゲージメント調査」を発表しました。対象は20〜50代の会社員500人、実施は2026年7月10日〜13日です。必要最低限の業務にとどめる働き方を実際にしていると答えた人は27.4%。「共感できる」と答えた人を合わせると64.6%に達しました。

【出典】株式会社クレオ「【従業員エンゲージメント調査の実態】働く人の6割超が『静かな退職』に共感、約半数が調査は『役に立っていない』と回答」(2026年9月4日発表)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000135.000016941.html

さらに、マイナビキャリアリサーチLabが、2026年4月13日に「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」を発表しました。個人向けの回答は3,000件です。必要最低限の業務にとどめる働き方をしている正社員は、全体で46.7%でした。年代別に見ても42.3%〜50.5%の範囲に収まり、特定の年代に偏った現象ではありません。

【出典】マイナビキャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」(2026年4月13日発表)https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260413_109736/

つまり「静かな退職」は、一部の層だけの話ではなく、組織のどこにでも起きうる現象だということです。

「やる気がない」のではなく、配分を組み直している

ここで立ち止まりたいのは、「必要最低限で働く」ことを、すぐに「やる気がない」と判断していいのかという点です。

人には、時間や体力、気持ちの使い方を組み直す時期が、必ず訪れます。仕事と暮らしのあいだで、何にどれだけ使うかを見直す時期です。ここでは、これを「配分を組み直す」と呼びます。治療や育児、介護と仕事を両立する時期もあれば、管理職を目指さないと決める時期もあります。それはキャリアが止まったということではなく、人生の一つの局面です。「必要最低限」という働き方も、その人が今、何にどれだけの力を使うかを選び直した結果の場合があります。

【2つの見方】
「やる気がない」という見方 … 本人の意欲の問題として完結させる
「配分を組み直している」という見方 … 今、何にどれだけ力を使うかを、本人が選び直していると見る

やる気の問題として完結させてしまうと、次に見るべき問いにたどり着けません。その問いとは、「この人は、いまの職場で何を受け取り、何を差し出しているのか」です。給与のほかにも、仕事を認められているか、学べているか、気軽に相談できる相手がいるか、疲れたときに休める余地があるか。そうしたものが足りないと感じたとき、人は力の出し方を調整する。これが、ここで取る見方です。

なぜ「やる気がない」と見えてしまうのか

調査をしても、半数近くが「役に立っていない」と感じている

経営者の多くは、すでに何らかの調査や面談を通じて、社員の状態を把握しようとしています。しかし、前述のクレオの調査では、エンゲージメント調査を受けた経験がある人のうち46.4%が、その調査を「役に立っていない」と感じていました。最も多かった理由は「調査を実施すること自体が目的になっているように感じるから」(29.3%)でした。

【出典】株式会社クレオ「【従業員エンゲージメント調査の実態】働く人の6割超が『静かな退職』に共感、約半数が調査は『役に立っていない』と回答」(2026年9月4日発表)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000135.000016941.html

調査そのものが悪いわけではありません。ただ、調査という形式には、回答する側に「評価されるかもしれない」という警戒心を残しやすい面があります。そのため、本当のところが書かれにくくなります。

以前の記事で触れたとおり、1人の離職には相応の損失が伴います。その手前にある「静かな退職」の段階は、調査では拾いにくいまま進んでいる可能性があります。

「長く勤め続ける」という前提自体が変わっている

もう一つ、見落とされやすい事実があります。

パーソルキャリアが運営する「doda」が、2026年9月16日に調査を発表しました。対象は大学生412人と若手社会人400人です。「ファーストキャリアで定年まで勤める予定」と答えたのは、大学生で15.3%、若手社会人で6.3%にとどまりました。

【出典】パーソルキャリア「大学生・若手社会人の就活・はたらくに関する調査レポート 第1弾『就活・キャリア選択の価値観編』」(2026年9月16日発表)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001095.000022215.html

これは「今の若者はやる気がない」という話ではありません。長く勤め続けることを前提に働き始める人自体が、構造として少なくなっているという事実です。前提が変わったのに、評価の基準が「定着して当然」のままなら、ずれが生まれて当然です。

【前提のずれ】
評価する側の前提 … 長く勤め続けることが基準
働く側の前提 … 最初から定年までを想定していない人が多数

このずれに気づかないまま「最近の社員はやる気がない」と結論づけると、何が起きているのかという事実から、目が逸れます。

対話によって、何が起きているかを一緒に見る

急に辞める人は、いない

急に辞める人は、いません。静かな退職も、ある日突然始まるわけではありません。どこかの時点で力の使い方が見直され、その状態が続いた結果として表れるものです。この指摘は、引き止めるためのものではありません。今、何が起きているかを事実として見るためのものです。

利害関係のない第三者と、落ち着いて話す従業員

評価と関係ない相手だからこそ、話せることがある

社内の上司やチームには、評価する側とされる側という関係が残り続けます。この関係があるかぎり、「本音を話しても実害がない」と感じるのは簡単ではありません。

一方、評価に関与しない第三者であれば、その警戒心が和らぎやすくなります。利害関係のない相手と、今起きていることを一緒に見る場を持つことは、選択肢の一つです。ただし、そこで交わされた言葉をそのまま経営者に届けるだけでは足りません。何を判断し、何を判断しなかったのかが本人に伝わって初めて、その対話は意味を持ち始めます。

対話で組織が変わると言い切ることはしない

誤解のないよう申し添えます。対話を重ねれば必ず組織が変わる、とまでは言い切れません。変化があったかどうかは、事後にしか語られないものです。ただ、何が起きているかを事実として一緒に見る機会がなければ、社員が力の使い方をどう見直しているのかは、経営者に見えないままです。

研修や制度の整備も、それぞれ重要な役割を持っています。対話は、それらを否定するものではなく、制度の網目からこぼれやすい部分を補う働きです。

まとめ:「やる気がない」で終わらせない

「必要最低限で働く」社員は、やる気がないのでしょうか。データが示すのは、そう単純には言い切れないということです。配分を組み直す時期は、誰にでも訪れます。そして、長く勤め続けることを前提にしない人が、最初から増えています。

貴社では、社員が今どのように力を配分しているか、最後に話したのはいつでしょうか。その問いに答えられないとしたら、見るべき事実が、まだ見えていないのかもしれません。

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